academistスタッフからの一言
これまでに「大きなナメクジ」を見たことはありますか? 見たことがあるのならば、その発見がナメクジ研究の進展に貢献するかもしれません。ナメクジを研究する京大・宇高寛子助教は、数少ない研究者だけで日本全国のナメクジ分布を調べることに限界を感じ、現在インターネットを通じてその目撃情報を募っています。今回宇高助教は、この市民科学プロジェクト「ナメクジ捜査網」のWebサイトを刷新し、より多くの目撃情報を集約することを目指して、クラウドファンディングにチャレンジします。ぜひ「ナメクジ捜査網」の一員になり、一緒に研究を進めていきましょう!
担当者:柴藤亮介
ナメクジはカタツムリと同じく、陸上に生息する貝、陸貝です。日本では、大きく発達した殻を持つものを「カタツムリ」、殻が退化してしまったものを「ナメクジ」と呼んでいます。ナメクジは、都市部から離れた自然の多い地域に生息しており、だれでも一度は見たことがある生き物のひとつではないかと思います。しかしその外見から、親しみを持ってみられることはなかなかありません。研究の世界でも状況は同じで、日本のナメクジについての研究はほとんど進んでいない現状です。
現在日本でよく見られるナメクジのひとつが、体長5cmくらいで、背中に2〜3本の線を持つ「チャコウラナメクジ」です。チャコウラナメクジは、第二次世界大戦後に日本に入ってきた移入種で、約50年で北海道から沖縄にまで分布を拡大しました。移入前は、キイロナメクジという別のナメクジが繁栄していたのですが、現在国内でキイロナメクジの姿を見ることはできません。キイロナメクジが移入する前は、もともと日本にいた在来種のナメクジが繁栄していたと考えられています。
このように、日本で見られるナメクジ類の種は、ナメクジからキイロナメクジ、チャコウラナメクジへと変化しました。しかし、このような種の変化がどのような過程で起こっていったのかは、全く明らかになっていません。
私は、日本のナメクジの分布や種構成がどのように変化するのかを明らかにしたいと考えています。チャコウラナメクジは、移入から約50年で分布を全国に広げました。50年と聞くと長いように思えるかもしれませんが、環境に生活史が大きく左右される無脊椎動物にとって、日本の幅広い気候に対応していくには、少ない年数です。すでにチャコウラナメクジは日本中に分布しており、キイロナメクジもほぼ生息していない状況なので、過去にどのようなことが起こったのかを知ることはできません。
現在、私が研究対象にしているのが、2000年初頭に茨城県で移入が確認されたマダラコウラナメクジです。マダラコウラナメクジは成長すると15cmになる大型のナメクジで、チャコウラナメクジやナメクジと生息環境が重なります。そのため、これら2種は特にマダラコウラナメクジの進出による影響を受け、今後日本におけるナメクジ類の種構成が再度変化する可能性が考えられます。その影響を知るためには、「今」の日本のどこにどの種がいるのかを知る必要があるのです。
しかし、特に移入種は人間の活動に伴って移動するため私有地に生息していることが多く、研究者ひとりでその分布域を明らかにすることは容易ではありません。そこで私は、「ナメクジ捜査網」と名づけたプロジェクトで、Twitterやホームページでの呼びかけなどを通じて、主にマダラコウラナメクジの目撃情報を集め、その分布を明らかにしようと試みています。
これまでに、マダラコウラナメクジ以外の目撃情報も含めると、2年間で約300件もの目撃情報を寄せていただき、現在のマダラコウラナメクジの分布が明らかになりつつあります。しかし現在の手法では、情報提供をしていただく市民のみなさんの心理的負担(やり取りがめんどくさそう、知らない人にメールするのが嫌だなど)や手間、情報共有・公開のしにくさが課題となっています。また、多くの方はナメクジ類を見慣れていないため、種名を判別するのが困難です。そのため、実はマダラコウラナメクジや、まったく日本で知られていない別の種を見つけていても、情報提供の手法が煩雑であれば、見過ごされてしまうこともあるでしょう。
そこで、手軽にかつ、あらゆるナメクジの目撃情報を蓄積・公開できる新しいWebサイトを作りたいと考えています。このWebサイトが完成すれば、どこにどのようなナメクジがいるのかを、リアルタイムで確認・登録することができるようになります。今回、ナメクジの生態や魅力について知っていただきながら、みなさんと一緒に研究を進めていく最初のステップとして、Webサイト制作費を募るためのクラウドファンディングに挑戦することにしました。
マダラコウラナメクジのような移入ナメクジがどのように広がっていくのか、あるいは広がらないのか、そして日本のナメクジの種構成がこれからどのようになるのか……。その答えを知ることができるのは、10年または20年後になるでしょう。すぐに答えの出る研究ではありません。しかしながら、ナメクジの「今」を知ることなしには、前進しないことは確かです。気の長い話にはなりますが、ご支援のほどどうぞよろしくお願い致します。
はじめまして。宇高寛子(Udaka Hiroko)と申します。季節的に変化する環境のなかで、変温動物がどのようにして生きているのかを、主にナメクジを対象として研究しています。卒業研究から博士号取得までは、大阪や北海道でチャコウラナメクジがいつ繁殖しているか、繁殖時期を決めるしくみなどについて研究しました。現在は、新しく日本に移入したマダラコウラナメクジに注目し研究を進めています。
以下のスケジュールで研究を進めていきます。
2018年03月 | クラウドファンディング挑戦 |
2018年06月 | システム開発開始 |
2018年07月 | システム試験運用開始 |
2019年03月 | 日本応用動物昆虫学会にて報告 |
2019年07月 | 論文執筆 |
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