academistスタッフからの一言
古代マヤ文明が栄えたティカル遺跡には、古代マヤ人の一般住居の遺跡が小さな古墳のような「マウンド」として残されています。これまで注目されてこなかった非エリート層の古代マヤ人の生活がそのマウンドの下に眠っており、その数は中心地だけでも約2,400基あります。今泉さんは、多数のマウンドにある「未発掘の遺物量」を推測する手法の開発を目指して、現地での発掘調査を進めます。考古学という学問の科学性の向上、ひいては現代社会へ役立つ人文科学を目指す今泉さんの研究に、ぜひご注目ください。
担当者:academistスタッフ
古代マヤ文明は、現在の国でいうと、メキシコの南部、グアテマラ全域、ベリーズ全域、ホンジュラス西部、エル・サルバドル西部の5か国の範囲に広がっていました。先古典期文化は紀元前2000年ごろから始まっていますが、国家段階に達したのは西暦250年以降の古典期と考えられています。そのため私の研究では、古代マヤ人をこの古典期の期間(西暦250~900年)にマヤ地域にて生活した同文化に属する人々と定義して研究を行っています。
本研究で対象とするティカル遺跡は当時における巨大な都市国家であり、古代マヤ文明の中心地として機能しました。ティカル遺跡(ティカル国立公園)は登録第1号の世界複合遺産であり、現在も多くの観光客が訪れる遺跡公園として有名です。
このティカル遺跡をはじめとする多くのマヤ都市では、これまでにエリート層に帰属する神殿や宮殿の調査がメインで行われてきており、古代マヤ文明のエリート層文化についてはさまざまなことが明らかになっています。
一方で、現状では、非エリート層についてはほとんどわかっていません。この古代マヤ文明の調査研究とその理解におけるアンバランスな状況を打開するために、私は非エリート層に帰属すると考えられる住居マウンドを対象に調査を行うことにしました。
現行の考古学研究では、発掘調査によって出土した資料をもとに分析研究が行われています。これは至極当然のことです。私たち考古学者にとって発掘調査は一度きりの実験であり、実験せずにデータを使うことは、土台おかしな話なのです。しかし、私は法則定立的研究を考古学へ導入するためのひとつの端緒として、データを活用した「未発掘の遺物量の推定」を考古学に取り入れたいと考えています。
未発掘にも関わらず、そこに内包される遺物に関するデータ(種別・量)を推定できるであろうと私が考えているのは、ひとえに古代マヤ文明の特殊性にあります。
古代マヤ文明では、神殿、宮殿や住居などの建造物遺構を「マウンド(盛り土状遺構)」として現地表面に確認することができます。神殿や宮殿は規模が大きく、切り石による構造が十分に残っているパターンが多いので、誰しもわかりやすいマウンドです。一方で一般の住居マウンドは、「小さな古墳」のようなマウンドとして確認することができます。古代の住居の痕跡が現地表面で確認できることは世界的にみても決して多くありませんが、古代マヤ文明ではそれが可能であることに私は着目しました。
私は、古代マヤ文明の膨大な数のマウンド群から一定数を選択し、その中心部に一定の単位面積で発掘区を設定して調査することで、単位体積当たりの遺物量とその種別、そしてそれらに関わる法則性を明らかにしたいと考えています。
従来の考古学は、報告書によって情報公開され、それぞれの研究者が報告書からデータを集めていくという手法が一般的でした。本研究では、報告書の公開だけでなく、ティカルにおける調査データをWeb上で一般公開します。そして、他の研究者がティカルを調査した際に、そこにデータを追加できるようなシステムにすることで、考古学研究を推し進めるためのデータベースを構築していきたいと考えています。
マウンドに対する調査の際、ティカルに関する各研究者には、単位体積当たりの遺物量と種別の数値化を発掘調査の基本フォーマットとして認知してもらい、それぞれの成果を収集し統合していくことで、マウンドの位置・規模と出土遺物の種別・多寡に関する数的法則性などについて、常に新たなデータに基づき更新していきます。これにより、未調査マウンドの遺物量を推定する統計的手法の精度を高めていけるものと構想しています。
こうして構築されたティカル内の遺物の種別・多寡に関するデータ群は、GIS(地理情報システム)との統合によりわかりやすく視覚化することで、新たにティカルにおいて発掘調査を実施する研究者にとっての重要なロードマップとなることが期待できます。
また、出土遺物量に未発掘分の遺物推定量を加算することで、特定の遺物の全体性を把握することができるようになれば、たとえば、物質文化面からみた経済格差による社会階層制の実態を把握したり、都市間の経済関係の把握に関して新しいアプローチ法を選択するといったような、従来の考古学の方法とは異なる研究を多数展開することが可能となるでしょう。
ティカル遺跡には現在までに中心部だけで約2,400基ものマウンドが確認されており、深いジャングルの中に没しているものがほとんどです。もちろんすべてを掘る必要はありませんが、多数のマウンドを対象に発掘調査を行い、マウンドの位置・規模と出土遺物の種別・多寡に関する法則性を見出し、未調査マウンドの遺物量の推定を可能にする方程式を導くためには、膨大な時間と労力が必要です。そのためにはどうしても調査チームと調査範囲の拡大が必要です。発掘調査は、気温43℃にもなるジャングルの中、現地調査員とともにピッケルによる手作業で行われています。今回は、その発掘調査の人件費を集めるために、クラウドファンディングに挑戦します。
ティカルでの発掘調査は、最小単位でのチーム構成(私を入れて4人)で調査を行っています。皆さまのご助力により得た研究費は調査員の増員とそれによる調査範囲の拡大のために使わせていただきます。ちなみに調査補助員を2名(1か月)追加するためには10万円が必要となりますが、それだけで調査可能範囲は現在の2倍になります。
私は、研究の長期的ビジョンとして「役に立たない」と後ろ指を指されがちな人文科学を「十分に現代社会に役立つもの」として社会に認識してもらいたいという野望があります。それは大きな野望ですが、ひとまずは考古学という学問が現代社会に役立つことを示していくことからはじめていこうと考えています。
マヤ文明では多数の都市国家が林立し、複雑な交易関係や同盟関係を有しており、多数の戦争の後に「文明社会が崩壊」しました。マヤ文明全体を現代の地球全体のミクロコスモとして捉えるならば、私たちはマヤ文明の歴史から、現在の国家間の複雑な経済関係や社会関係、戦争、そして文明崩壊の危機に関して学ぶことが多々あるはずです。
幼少期に祖父に恐竜の絵本を買ってもらったことをきっかけにいろいろな本を読むようになり、結果、考古学・古生物学(恐竜)・物理学(宇宙)に興味を持つようになりました。考古学研究者はこの3種が好きである傾向があるようで、どうやら私たちは時間的にあるいは空間的に『今の私たちから遠いもの』が好きなようです。
大学では当初ヨーロッパの考古学を行う予定でしたが、研究室にあった論文集で「古代メソアメリカ特集」をやっており、それを読んだことがマヤ考古学を志す経緯となりました。考古学は先史時代を得意としますが、かつてはなかなかに難しいなと思っていて、一方で歴史時代は文献史学が強く考古学から貢献するのは難しいなと思っていました。そうしたなか、古代マヤ文明はマヤ文字による「史料」がほどよく存在するため、『ちょっとヒントが存在しつつも考古学が存分に活躍する領域』として当時の私の目に映ったのです。
私は博士課程の途中で2年間青年海外協力隊としてティカル国立公園の考古学者として勤務経験(日本人で唯一、たぶん現地考古学者を除けば世界でも唯一)があり、そのときの繋がりのおかげで現在まで継続的に資料調査や発掘調査をティカルで行っています。
以下のスケジュールで研究を進めていきます。
2021年1月 | クラウドファンディング開始 |
2021年1月~3月 | 2020年度の調査成果に基づく論文の発表 |
2021年3月~8月 | グアテマラ、ティカル遺跡における発掘調査の許可申請期間 |
2021年4月~8月 | 国内における調査研究の実施 |
2021年9月~11月 | グアテマラ、ティカル遺跡における発掘調査の実施 |
2021年12月~3月 | 学会発表、報告書作成、論文執筆期間 |
現在、5人のサポーターが支援しています。
(数量制限無し)
現在、2人のサポーターが支援しています。
(数量制限無し)
現在、2人のサポーターが支援しています。
(数量制限無し)
現在、0人のサポーターが支援しています。
(数量制限無し)
現在、0人のサポーターが支援しています。
(数量制限無し)
Copyright © academist, Inc. All rights Reserved.