academistスタッフからの一言
グッズ販売、メルマガ、オンラインサロンなど、あらゆる方法でクマムシの知名度向上に貢献し、同時に着実に研究成果を出されてきたクマムシ博士・堀川大樹さん。今回堀川さんは、インターネットを通じて研究費と共同研究者を募集することで、クマムシ研究を発展させていくという新たなチャレンジをはじめました。クマムシさん × academist のここでしか手に入らない限定リターンもありますので、ぜひ最後までプロジェクトページをご覧ください!
担当者:柴藤亮介
生命にとって水は必要不可欠なものです。ところが、この常識が当てはまらない生きものがいます。それが、クマムシです。クマムシは体長1ミリメートル以下の生物ですが、私たちと同じように多くの細胞からできている動物(緩歩動物)です。神経や筋肉もあります。コケなどに棲む種類のクマムシは乾燥にさらされると脱水し、70%以上あった体の水分は3%以下になってしまいます。カチカチの鰹節でも、水分が15〜20%ほど含まれています。いかにクマムシがカラカラか、おわかりいただけるでしょう。
カラカラになったクマムシは、死んでいません。「乾眠」という仮死状態になっています。乾眠のクマムシは呼吸をしておらず、いっさいの生命反応は見られません。乾眠のクマムシは、マイナス273度付近の超低温、およそ7万5千気圧という超高圧、そして宇宙空間の真空にも耐えることができます。乾眠のクマムシに水をかけると、10分ほどで復活します。「乾眠」は「生」でも「死」でもない、第3の状態といえます。また、クマムシは通常状態でも乾眠状態でも、ヒトのおよそ1000倍の致死線量の放射線に耐えます。
神経も筋肉もある動物が、このような常識外れの能力をもつということ。動物の極限環境耐性獲得のメカニズムを知る上で、クマムシは、とてつもなく魅力的な生物なのです。
クマムシのなかに、乾燥や放射線への耐性がひときわ高い「ヨコヅナクマムシ」という種がいます。これまでの研究から、ヨコヅナクマムシの乾燥耐性や放射線耐性にかかわる遺伝子の候補が、複数見つかってきました。これらの遺伝子から発現したタンパク質は、乾燥や放射線のダメージからヨコヅナクマムシの細胞を守る役割があると考えられているのですが、これらのタンパク質がどこまでヨコヅナクマムシの耐性に関与しているのかは、まだはっきりとわかっていません。
耐性にかかわると考えられている遺伝子が、ヨコヅナクマムシの中で実際にどのような働きをもつかは、これらの遺伝子を壊すことで調べることができます。ある遺伝子の機能を失わせた時に、もしヨコヅナクマムシの耐性が低下すれば、その遺伝子は耐性にかかわる重要な遺伝子であることが推定できるからです。しかしながら、クマムシの特定の遺伝子を操作する技術は、長い間開発されてきませんでした。
ところがここ数年、生物の遺伝子を改変する、ある革命的な技術が広まってきました。それは、将来にノーベル賞を受賞すると思われる「CRISPR-Cas9(クリスパーキャスナイン)」とよばれる、ゲノム編集技術です。(こちらもぜひご一読ください。)
これまで、遺伝子改変は限られた生物でしかできませんでした。しかし、このゲノム編集技術CRISPR-Cas9法を用いることで、今までに遺伝子操作が難しかった数多くの生物種を遺伝子改変することが可能になっています。ゲノム編集でヨコヅナクマムシの遺伝子を改変して機能を失わせることで、実際に耐性に関わっている遺伝子レパートリーを特定しやすくなります。つまり、クマムシの常識外れの耐性能力の謎の解明に向けて、大きく前進するものと期待されます。
また、今回のプロジェクトでは、共同研究者も募集しています。クマムシの実験システムはまだまだ未熟な部分もあり、目的達成のためには基本的な技術を段階的に確立していく必要があります。 まずは、 GFP発現mRNAをクマムシの卵巣に注入し、産まれてくる子どもが蛍光を発するかを確認し、それと並行してCas9タンパク質とsgRNAもクマムシに注入し、遺伝子改変を起こせるかを検討していきます。
遺伝子操作技術などに明るく、クマムシの研究にご興味のある研究者の方、ぜひともこちら(horikawadd@gmail.com)までコンタクトをいただければと思います。また、本プロジェクトにご興味のある企業の方からのご連絡も歓迎しています。
クマムシ研究歴16年のクマムシ博士。クマムシの極限環境耐性に関する研究を一貫して行ってきた。NASAなどでクマムシの研究を遂行したのち、パリ第5大学を経て、現在は慶應義塾大学先端生命科学研究所特任講師および政策・メディア研究科特任講師(非常勤)。著書に『クマムシ博士の最強生物学講座』、『クマムシ研究日誌』、『クマムシ博士のクマムシへんてこ最強伝説』がある。慶応義塾大先端生命科学研究所の荒川和晴准教授らと連携を行いながらクマムシ研究の拡大に努めている。
以下のスケジュールで研究を進めていきます。
2017年3月 | クラウドファンディング挑戦 |
2017年7月 | 実験開始 |
2020年3月以降 |
論文執筆
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