academistスタッフからの一言
大腸菌は、分裂しても性質は変わらないと思っていませんか? 現在、iGEM UT-Tokyoの皆さんは、分裂するごとに性質がかわる大腸菌づくりを目指して、研究に励んでいます。今回、この研究成果を、合成生物学の国際大会「iGEM」で発表し,金メダルを獲得することを目指しています。iGEM UT-Tokyoの研究にぜひご期待ください!
担当者:academist編集部
iGEMとは、世界中から200弱ものチームが参加する、合成生物学の国際大会です。iGEMでは、遺伝子パーツを新たに作成したり組み合わせたりすることで、細胞に新たな機能や性質を導入し、その独自性、 工業的有用性、科学的価値などを競います。
私たちiGEM UT-Tokyoは、今年の秋にボストンで開催されるiGEM 2016年大会に向けて、「細胞周期が一周するごとに遺伝子の発現が変わるような大腸菌」を作成することで、金メダルの獲得を目指しています!
「細胞周期が一周するごとに遺伝子の発現が変わる」とは、どういうことでしょうか? たとえばここに、緑色蛍光たんぱく質をつくる遺伝子を持つ大腸菌がいたとします。一般的には、細胞分裂の前と後でその性質は変わりませんから、この大腸菌はいくら分裂しても緑色に光り続けます。
しかし、私たちがつくろうとしている大腸菌では、一度分裂すると、なんと緑色ではなく、赤色蛍光たんぱく質をつくるようになります。さらにもう一度分裂すると次は青色蛍光たんぱく質を、そしてもう一度分裂すると、再び緑色蛍光たんぱく質をつくるようになるのです。
このような細胞をつくることができれば、さまざまな役に立つ大腸菌を作ることができると考えられます。たとえば、99世代目までは特定の酵素を発現するけれども、100世代目で致死遺伝子を発現して自らのDNAを分解して死ぬような大腸菌について考えてみましょう。
あるとき、石油流出の事故が発生し、土壌が汚染されました。このとき、石油を分解する酵素をつくりだす細菌を事故現場に散布することで、流出した石油を取り除くことができると考えられます。しかしこの手法には、遺伝子組み換えした生物を自然界に放つことで、生態系に未知の影響を与えてしまうという問題点があります。ここで、先ほど言った100世代目で死ぬような大腸菌をつくることができれば、一定時間石油を分解した後に、環境に影響を残さないように大腸菌を自殺させることができるため、生態系への問題を回避できるかもしれないのです。
私たちは、100世代やそれより多くの世代をまたいで遺伝子発現をコントロールする技術の礎として、3世代で遺伝子発現の変化がループするようなシステムをつくりたいと考えています。具体的には、転写を制御するために使うことができるたんぱく質の因子と、細胞周期中に一度だけはたらくようなプロモーターなどを用いることで、緑→赤→青→緑→……と分裂するたびに色がかわる大腸菌をつくる予定です。すでに、どのようなプロモーターやタンパク質を使用すればいいかの目処はついており、コンピューターでシミュレーションした結果、理論上実現可能なこともわかっています。今後は、実際にこれらのプロモーターや因子などの遺伝子を大腸菌に組み込んでいく予定です。
このような、DNAの配列を変えることなく細胞分裂を引き金にして遺伝子発現をコントロールしようという研究は、合成生物学分野において新たな視点を与えるものになると考えています。
私たちは学部生主体のサークルであるため、研究をし、iGEMのチームとして登録し、実際にボストンへ渡航して大会に出場するという費用のうち大半を自分たちで捻出しなければいけません。
研究に使う試薬の支援は企業や大学から得ることができるのですが、チーム登録費や渡航費などに関してはそのような支援を受けることが困難です。現状では、チームのメンバーがアルバイトなどをして私費を大量に投じないといけない状況です。今回、academistで集めた資金は、研究費や登録費、渡航費にあてたいと考えています。金メダル受賞に向けた私たちの取り組みへのご支援、よろしくお願い致します!
はじめまして。iGEM UT-Tokyo代表の那須田桂です。UT-Tokyoでの活動は多岐にわたり, 個人個人が自分の居場所を見つけることができます。チームメンバーの興味も多様で、メンバーには生物初心者の人も多く、数学や物理の進路を考えている人も在籍しています。 学部生という早い時期から研究プロジェクトに本気で取り組んでみることは大変面白いことだと、私たちは考えています。
以下のスケジュールで研究を進めていきます。
2016年07月 | 実験開始 |
2016年09月 | クラウドファンディング挑戦 |
2016年10月 | Giant jamboree |
2016年10月以降 | 論文執筆 |
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